数多くあるニューヨークの美術館の中でも、カタツムリのようなユニークな建築で知られるSolomon R. Guggenheim Museum(ソロモン・R・グッゲンハイム美術館)。
マンハッタンのアッパー・イーストサイドに位置するこの美術館では、現代アートを中心とした作品を貯蔵しています。
今回は、ニューヨークでも近代建築のアイコンのひとつとなっているソロモン・R・グッゲンハイム美術館についてご紹介します。
※1ドル=約107円
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の概要
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館とは
美術館の名前にもなっている通り、この美術館はソロモン・R・グッゲンハイムによって設立されました。
もともと鉱山会社を営む父親を持ち、裕福な家庭に育ったソロモン・R・グッゲンハイム。自身も鉱山会社で成功していたようですが、抽象絵画アーティストであったヒラ・ヴォン・リベイの協力のもと、趣味であった現代アートの収集を始めます。
そして1937年に財団を設立後、1939年にはソロモン・R・グッゲンハイム美術館の前進となる「Museum of Non-Objective Painting(非具象絵画美術館)」として1939年に54丁目のミッドタウンにオープンします。
場所を現在の5番街の場所へと移ったのは1959年のことで、日本帝国ホテルをデザインしたフランク・ロイド・ライト氏が新美術館のデザインを手掛けました。
非具象絵画美術館がオープンして今年(2019年)で60年目を迎えるグッゲンハイム美術館では、19世紀の印象派から、20世紀のシュルレアリスムやキュビスムを代表する画家たちの作品を見ることができます。
そのユニークな建築から映画の舞台にも使われ、ニューヨークでもアイコニックな美術館となっています。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の入場料金
入場料
グッゲンハイム美術館の通常の入場料は下記の通りですが、新しい展示の準備で一部を閉鎖している場合は値段が下がることがあります。
- 大人:25ドル(約2,706円)
- 学生(学生証必須):10ドル(約1,082円)
- 65才以上のシニア:10ドル(約1,082円)
- 12才以下の子供は無料
土曜の夜は寄付金で入場できる
また、土曜日の夜5時から8時の間は好きな金額を寄付することで入場できるので、少しでも節約したいという方にはおすすめです。
ただこの時間は長蛇の列ができることを覚悟しておきましょう。私は今回初めて寄付金で入場しましたが、6時に到着した時点ですでに1ブロック先まで続く長い列ができていました。外で待つこと30分、やっと入場できたのが6時半過ぎでした。
7時前後にはかなり列が短くなっていたので、外であまり待ちたくないという人は、6時半から7時の間に行くといいかもしれません。
また、注意してほしいのが寄付金で入場する場合は現金でしか支払いができないこと。必ず現金の用意を忘れないようにしましょう。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の回り方
グッゲンハイム美術館の回り方ですが、まずエレベーターで最上階にあがり、壁面に飾られた作品を順に下りながら見ていきます。最上階から4階まではその都度変わる特別展示が行われ、2、3階にはグッゲンハイム美術館の所有するコレクションが展示されています。
近代建築の代表のひとつともなっているグッゲンハイム美術館ですが、吹き抜けになった中央の天井から入る光とその緩やかな形状のせいか、コンクリートでできているのにも関わらず無機質さを感じさせない不思議な空間となっています。
ちなみに、他の美術館にはない新しい建築デザインについて、来場者からは批判の声も上がっているそうです。それは「床が斜面になっているため絵を見る時に平衡感覚がとれず落ち着かない」というもの。
実際に私が斜面を下りながら見ているとき、少し見疲れしたという感覚がありました。ただ口コミなど見てみると、大抵の人が平衡感覚については全く気にならないと書いてありますし、人によって感じ方は様々かもしれません。
それに、階段のない斜面のおかげで車いすの人はエレベーターをいちいち使わずに済みますし、作品を途切れることなく流れるように見れるのは利点だと思います。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館に常設展示されているアーティスト
ワシリー・カンディンスキー
「Dominant Curve(優勢なカーブ)」
ワシリー・カンディンスキーは1886年生まれのロシア出身の画家です。抽象絵画の先駆者としてよく名の上がるカンディンスキーですが、最初に抽象画を描くことになったきっかけはモネの「積み藁」だったそうです。
形がはっきりしていなくても、色彩によって何かを表現することができると感じたカンディンスキー、具象画を超える絵画を描くことを目指します。
1922年から1933年までベルリンのバウハウスで教授として講義をしていたカンディンスキーですが、ナチスによってバウハウスが閉鎖されるとパリに移ります。
上の写真の「Dominant Curve」は、そんな政治状況の中でも戦後の復興、再建を願う思いが描かれているそうです。
ちなみにグッゲンハイム美術館は、ワシリー・カンディンスキーの作品をアメリカでも最も多く所有している美術館です。
アメデオ・モディリアーニ
「Jeanne Hebuterne with yellow sweater(黄色いセーターを着たジャンヌ・エビュテルヌ)」
アメデオ・モディリアーニは1884年生まれのユダヤ系イタリア人の画家で、面長な顔と塗りつぶされた目の作風で有名です。モディリアーニを語るのにかかせない人物が、上の写真の絵に描かれている恋人、ジャンヌ・エビュテルヌです。
ようやく画家として評価され始めたところ、16歳の頃から患っていた結核性髄膜炎により、モディリアーニは36歳という若さで亡くなります。
この「黄色いセーターを着たジャンヌ・エビュテルヌ」は、モディリアーニの病状が悪化し2人でニースの療養所で過ごしていた時に描かれた絵だそうです。
まるで女神のように優しい表情をしたジャンヌですが、この時モディリアーニとの2人目の子供を身ごもっていました。悲しいことに、モディリアーニが亡くなった2日後、ジャンヌは5階のアパートから身を投げ自ら命を絶ってしまいます。
ロベール・ドローネー
「The Eiffel Tower with Trees(エッフェル塔と樹木)」
ロベール・ドローネーは1885年生まれのフランスの画家で、ワシリー・カンディンスキーと並んで抽象画の先駆者のひとりと言われています。
一つのオブジェクトを多数の視点から描写するキュビズム運動にも参加していたドローネー。後にキュビズム運動から脱退し純粋抽象に近い絵を描いていきますが、ドローネーを一躍有名にしたのが写真の「エッフェル塔」シリーズでした。
ドローネーの作品は、他のキュビズム運動に参加していた画家に比べて柔らかく明るい色彩を使っており、絵の中で動いているかのような躍動感にあふれた作風で有名です。
マルク・シャガール
「The Soldier Drinks(酒を飲む兵士)」
マルク・シャガールはロシア領ヴィテブスク(現在のベラルーシ共和国)出身のパリで活躍した画家です。
ユダヤ人家庭に生まれ、故郷の人口の大半がユダヤ人であったシャガールにとって、ユダヤ教という存在は大きな役割を持っていました。シャガールの絵には、そんなユダヤ教のシンボルや故郷の思い出が多く描かれており、どこか非現実的で幻想的な色使いが特徴的です。
写真の「酒を飲む兵士」はヴィテブスクからパリに移った後の1911年に描かれた絵で、キュビズムの技法が取り入れられています。
この絵は、日露戦争後の帝政ロシア兵士の思い出を描いている絵で、兵士の右手は赤く染まった外の世界(過去)を指し、左手は青いテーブルの上にあるカップ(現在)を指しています。これは過去と現在、幻想と現実の二面性を表現していると言われています。
エドガー・ドガ
「Dancers in Green and Yellow(緑と黄色衣装の踊り子)」
エドガー・ドガは1834年生まれのフランスの画家です。ドガと言えば印象派を代表する画家で、よくバレエの踊り子たちを描いていたことでも有名です。
初期には歴史画を描いていたドガですが、競馬の騎手や馬、そして工場や洗濯をする女性の姿など、次第に当時の生活をテーマにした作品を描いていくようになります。
ドガの作品にバレエをテーマにした作品が多く残されている理由には、まず、バレエ鑑賞が好きでオペラ座の定期会員になっており、稽古場や舞台裏に自由に立ち入ることができたため。次に、視力に問題があり、外の光を苦手としていて室内で過ごすことが多かったため。
そして、当時亡くなったが父親隠していた負債や、兄が事業に失敗したことにより借金を返済するために売れる絵を描く必要があり、その中でも一番売れたのがこのバレエの絵だったため、などいくつかの説があるようです。
ソロモン・R・グッゲンハイム美術館のギフトショップ
グッゲンハイム美術館の1階と6階には、展示されているアーティストのグッズを販売しているギフトショップもあります。
今回私が行った日には、スウェーデンの女性画家、ヒルマ・アフ・クラントの展示が開催されており、彼女の作品の優しい色使いと神秘的なデザインのグッズは女性に人気でした。
複製ポスター
他にも常設展示のアーティストについての本や複製のポスターなども購入できます。
ちなみに私はワシリー・カンディンスキーの「Dominant Curve(優勢なカーブ)」の複製ポスターを購入。サイズは縦40cm×横50cmで、値段は45ドル(約4,869円)でした。
キーホルダーやポストカード
他にもモンドリアンのキーホルダーやポストカード、お土産にぴったりな小物が揃っています。写真にもありますが、靴下まで販売していました。
グッゲンハイム美術館に来た記念に、自分の気に入った作品のポストカードを買うのもいい思い出になるかもしれませんね。
アクセス情報
- 名称: Solomon R. Guggenheim Museum(ソロモン・R・グッゲンハイム美術館)
- 住所: 1071 5th Ave, New York, NY 10128
- 電話番号: (212) 423-3500
- 営業時間: 月曜 10:00~17:30 火曜10:00~20:00 水、木、金曜10:00~20:00 土曜10:00~20:00 日曜10:00~17:30
- アクセス: 緑の4、5、6ラインで86th Street駅下車 徒歩9分 または黄色のQラインで86th Street駅下車 徒歩14分
- WEBサイト: https://www.guggenheim.org/
まとめ
グッゲンハイム美術館は「アグリー・ベティ」や「ザ・バンク 堕ちた巨像」など、映画やドラマの舞台にも使われてきました。
中でも有名なのが「メン・イン・ブラック」の冒頭でウィル・スミスが逃亡者を追いかけていくシーン。ウィル・スミスが螺旋状になった館内を駆け抜けていく姿は、見覚えのある方も多いと思います。
有名アーティストの作品だけでなく、ユニークな建築でも楽しませてくれるグッゲンハイム美術館。ぜひニューヨークに訪れた際には、一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。